それから、何回か進藤と碁会所で打つ回数が増えて行ったが、進藤がわからないのは相変わらずだった。 突然、誕生日を祝ってやる、とかいいながら僕の家についてきたり いいと言っているのに、ケーキのホールを買ったり…。 食べきるのが大変だった。次の日、夕飯を作りに来てくれた芦原さんが協力してくれなかったら、その前に 悪くなってしまっただろう。 どうしたんだよ、これと芦原さんが言うので進藤が買ってくれたんだよ、と言うと驚いていた。 『やっぱり、仲いいんだな。アキラと進藤くん。棋院でも噂になってるしなぁ』 『噂?何の噂?』疑問に思ったので、聞いてみると芦原さんは慌てたように 『お前は知らない方がいいよ。どうせ、ガセネタだろうし…』 と言っていた。何の事か気になるが、聞かない方がいいような気がして問い詰めなかった。 芦原さんは僕に同年代の友人ができたことを喜んでいた。やれやれ。お母さんも同じようなことを言っていた。 進藤と僕は、友人…なのだろうか。 友人を作るという機会が無かったというか、そういう必要性も感じなかったので 友人がどういうものなのか、僕にはわからない。 こうして頻繁に碁を打つのが、友人なのだろうか。進藤と碁を打つのは何よりも楽しいし、貴重な時間だ。 それに、進藤に負けると悔しい。どうしても悔しい気持ちが抑えきれなくなる。 それだけじゃない。進藤があまり評価されなくても、僕は悔しいのだ。 進藤のことを、まだ低段者と見くびる人がいたりすると、どうしてもそうではないと否定したくなる。 それは、僕自身がライバルと認めているからだろう。 僕のライバルになるのなら、並の実力では困る。それ相応の力をもって、周りに評価されなければ…。 こういうのを友人、と言うのだろうか。 よくはわからないが進藤は僕と違う考えを持っているかもしれない。 彼には、たくさんの友人がいる。 進藤は、僕のことを友人のうちの一人だと思ってくれているのだろうか。 だが、進藤はよくわからない行動をとることがある。 急に抱きしめてきたり、キスをしてきたり…。好きだと言ってきたこともあった。 なぜ、そういうことをしてくるのかわからない。友人同士が普通にする行為ではないだろう。 経験が無いので、僕にはよくわからないが進藤はキスがうまい、と思う。 逃げる隙も無かった。逃げようとすればするほど、追い詰められて…。 進藤がいつも誰かに、こういうことをしているのかと思ったら、なぜだか胸が苦しくなった。 思わず、頬をひっぱたいてしまった。 進藤は傷ついたような悲しげな瞳をしていた。そんな顔をするぐらいなら、最初からキスなんてするな。そう、思う。 それから、進藤を避けてしまう日々が続いた。普通に接することができないと思ったからだ。 前に芦原さんに『俺さ、またフられちゃったんだよね。』と相談されたことを思い出す。 芦原さんはよく僕に恋愛のことを話してくる。経験が無い僕は、うんうんと聞くしかないのだが… いつも、フラれたり、浮気されたりとあまりいい話でないのが可哀相だと思う。 『オレは本気だったんだけどね。なんか、向こうは遊びだったみたい。 オレなんかより、ずっと経験豊富な人でさー。オレを揶揄って楽しんでたんだろうな。』 その言葉に、僕はハッとした。 進藤も、経験の無い僕を揶揄っているだけなのだろうか。 男の僕にそんなことをしても、楽しいはずが無いと思うが…。 そうやって、揶揄って僕がどぎまぎするのが面白いのだろうか…。 僕のことを”好きだ”とか言っていたのも全部、そのためだと思うとなぜだかすごく悲しくなった。 それでも、やっぱり進藤と碁が打ちたくて。 碁盤に何度も進藤との棋譜を並べては、どう切り替えそうか、と考えるのが僕の習慣になってしまっていた。 倉田さんたちとの研究会も、来てくれるだろうかと不安に思った。 だけど、何度電話しても、進藤の携帯は「電源が入っておりません」という機械的なアナウンスしか聞こえて来ない。 時間も教えておきたかったのに…。 だんだん、イライラしてくる。進藤は僕と打たなくて平気なのだろうか。 だが、次の日、進藤は遅刻をしたが顔を見せてくれたので安心した。 今日、君と打てるかもしれない。 そう思ったのに…今、進藤は、スーと気持ちよさそうに寝ている。 この調子では、無理やり起こしたとしてもロクに打てないだろう。 今日、一日なんだか、疲れた顔をしているなぁ…と思っていたら、昨日の夜、ロクに寝てないらしい。 僕は襖をあけて布団を取り出すと、進藤に掛けてやった。。 この季節に何も掛けないで寝ると、風邪を引いてしまう。 僕が君と打つ時は、君のように寝不足や、体調不良にならないように気をつけるのに。 いつも、全力で君と戦いたいから。それなのに、君は…。 心の中でそうつぶやきながら、思わずため息が出てしまう。 それから、どれくらいの時間がたっただろうか。 僕が自分の部屋で、石を並べていると進藤が顔を出した。 さっきよりはスッキリとした顔をしているので、よく眠れたのだろう。 「それ、オレが勝った対局の奴だろ?」 そういいながら、進藤は碁盤の向かい側に座る。 僕が昨日の事を聞くと、中学校の友達と朝までカラオケをしていたと教えてくれた。 中学校の友達…。進藤が付き合っている人だろうか。 市河さんが、女の子と駅で歩いているのを見かけた、そんなことを言っていた。 進藤の知らない一面だ。そこに僕の知らない進藤がいる…。 そう思うと、悔しいんだか、悲しいんだか、よくわからない気持ちになる。 「なぁ、塔矢…。この前のこと、怒ってる?」 進藤にそう聞かれて、思わず「当然だろう」と言ってしまった。 進藤は、困ったように笑って「ごめん」と謝った。 「謝るくらいなら、するな。」 「でも、オレ、お前のことが好きなんだって。でも、お前、信じてくれないから…。 別に、嫌なら嫌って言えよ。振ってくれて構わないから…。」 好き…?進藤が僕を?まさか。 また、僕をからかっているだけなのだろう。信じられない。 「君は、そうやって僕を揶揄っているだけだろう? 僕が、あんまりそういう事に免疫が無いから…面白がっているんだろう?」 僕の言葉に、進藤は否定する。 saiともつきあっていないとハッキリ言われた。 僕の数々の疑問に進藤は、言葉を選びながら答えてくれる。 でも、僕はどうしても信じられない。僕たちは同姓だ。 これが男女だとしたら、もしかしたら、これで成立するカップルもあるのかもしれない。 だけど…。僕たちは違う。男同士だ。それなのに… 「なぁ、塔矢。お前はどうなんだよ?オレのこと好きなのか、嫌いなのか?」 進藤にそう、問い詰められて僕はどぎまぎしてしまう。 好きか、嫌いかだなんて…考えた事も無い。 そりゃ、進藤と碁を打つのは楽しい。でも、それで好きという事になるのだろうか。わからない。僕にはわからない。 なかなか答えない僕に、しびれを切らしたのか、進藤は突然立ち上がって僕の真正面に座った。 僕をじっと見据えてくる。その視線に耐えられなくて僕は立ち上がろうとする。 その瞬間、進藤が強い力で僕の腕をひっぱった。 バランスを崩して進藤の胸に顔を埋める形で倒れてしまう。 本当に、いつのまに、こんなに体格差が出たんだろう。 進藤の方が僕よりも、力があるという事実がショックだった。ちょっと前までは、僕の方が身長も高かったのに。 あんなに、子ども子どもしていた雰囲気が今の進藤からは感じられない。 どことなく大人っぽくなってきている。 「進藤、はなせっ」 必死でもがいて、そう抗議するが、進藤は力を緩めてくれなかった。 ふっと力が弱まったと思ったら、進藤の視線に捕らえられる。 「なぁ塔矢、オレのこと好き?嫌いじゃないよな?こうして、オレと打ってくれるし…。」 そりゃ… 「君と打つのは何よりも楽しいよ…。」 これが僕の正直な気持ちだ。 「打つだけ?オレ自身は?」 進藤自身?そんなこと、聞かれてもわからない。 けれど…もし、僕が嫌いだと答えたら進藤は、僕と碁を打ってくれるのだろうか。 もう二度と打ってくれなくなりそうな気がする…。折角、やっと打てるようになったのに。 「もし、僕が嫌いだと言ったら、君はどうするんだ?ちゃんと僕と碁を打ってくれるのか?」 僕が必死で、そう尋ねると進藤は、少し考えた後に 「しばらくは無理かも…。」 と言った。やはり…。 今、ここで進藤を逃すと、当分、進藤と碁が打てなくなってしまう。 それだけは避けたかった。 でも、どうすればいいのだろう。どうすれば進藤は僕と打ってくれるんだろう。 進藤の気持ちに答えれば…?でも…。 僕は頭の中でいろいろ考えてしまった。 「ずるいよ、君は…。」僕の言葉にまた、進藤が困ったように笑った。 進藤はいつから、こんなふうに大人っぽい表情をするようになったのだろう。 「塔矢、キスしていい?」 突然の言葉に驚く。嫌に決まってるだろう、ふざけるな!そう言いかけたが… 進藤の瞳があまりにも真剣で僕はその瞳に魅せられてしまった。 突然、顎を持ちあげられてキスされた。二度目のキスだ。 あの時も、無理やり。そして、今も。進藤、後で覚えてろよと心の中でつぶやく。 「んっ…」 息を吸おうと口をあけたとたんに、進藤が奥まで舌を滑らせてくる。 歯列をなぞられて、体がびくんと反応したのが自分でもわかる。 恥ずかしい。こんなの自分じゃない。 自分が自分で無くなるようで、怖い。嫌だ。 気がつくと、僕は進藤の唇を思いっきり噛んでいた。 「いっ!」 その隙に僕はサッと立ち上がった。 「塔矢、血が出たんだけど…」 うらめしそうに見上げてくる、進藤を僕は見下ろして 「当然だろう。僕はまだ、君に全てを許した訳じゃない。」 そう言い放った。まだ、早い、と思う。 僕と進藤が、例えそういう恋人というものになるのもまだ、早い。 碁盤のうえではよく知っているが、まだ、僕たちはお互いをよく知らない。 まだまだ、これからだ。僕も、進藤も…。おわり
* あとがき * 初チューです。です。(何)しかも、無理やり。ヒカルも、年頃ですから、抑えきれなかったんでしょう。(何が; アキラくんは、ヒカルの告白をどうするのでしょうか。いまいち、本気にしていないような感じですね。笑 もう少し、その辺を書いていきたいです。 よろしければ感想など、お聞かせくださいませw WEB拍手
aya 著 / 掲載サイト:【Moment】