moment 君への想い

| NEXT | 目次

  7  


そして、9月17日。いよいよ、三次予選決勝の日を迎えた。棋院に行くと、古瀬村さんとすれ違った。
「やぁ、進藤くん。いよいよ、今日だね。塔矢くんはもう対局場にいるよ。」
心意気は?と古瀬村さんに迫られた。
「塔矢との対局はこれで三回目。今までの二回は全部負けてる。今回も、どうなるか…」
オレがそうつぶやくと、古瀬村さんが心配そうな顔をする。
「おいおい、進藤くん。そんな弱気で大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。アイツの碁は誰よりも俺がわかってるから。他の誰と当たるよりも
いい対局になるよ。」
オレは笑いながらそう言った。大丈夫。変に気負ってない。むしろ、ワクワクしている。
塔矢と久しぶりに打つ。自分の力を試す時が来た。

古瀬村さんの言う通り、オレが対局場に着くと塔矢の姿が合った。
久々に見る、塔矢だ。きっちりとした紺色のスーツに身を包んでいる。
塔矢、オレ頑張るから。心の中でそうつぶやきながら、塔矢の向かい側に座った。
キッと塔矢がまっすぐに、オレを睨みつける。そんな目を向けられるのは久しぶりだった。
あれは、オレがプロになってすぐの、表彰式だったか。
塔矢とやっと並べた、そう思って声をかけたのに、塔矢は無視をした。
あの時の塔矢の表情。宣戦布告。そんな雰囲気だった。
それから、オレが不戦敗から復帰してすぐに迎えた名人戦・一次予選。あの時、初めて塔矢との対局がかなった。
あれから1年ちょっとがすぎようとしていた。
そして、今日。天元戦三次予選、決勝。ついにここまで来たのだ。
これに勝った方が本戦に進出。負けた方は来期、また予選から勝ち上がって来なければならない。ビーと開始の音が鳴る。

「お願いします。」

先番は塔矢だった。白がオレである。
(先にそっちに打ってきたか。ならば、オレはこっちの黒の模様を荒らす…)
オレが右辺の黒に、白石をのばす。すると、思った通り塔矢はツケてきた。
やはり、ゆっくり構える気は無いのだろう。早々に勝負を仕掛けてくる。
攻撃的。塔矢の碁はいつも、そうだ。ここぞというばかりに、攻めてくる。
チラッと塔矢の顔を窺う。真剣な眼差し。オレの出方を待っているようだ。
(だったら…。)
ワクワクするような攻防が続いた。
そして、終局。結果は、オレの半目勝ちだった。何とか、半目だが自分の地を守ることができた。
お互い、譲らずの攻防でオレ自身、中盤で塔矢に押され危うくなった。
逃げて守って逆に押し返して、攻める。それを繰り返した。
そうして、出た結果だ。この一局はオレの勝ちだったが、かといって、オレの大勝という訳ではない。
まだまだ、オレも塔矢もこれからだ。
何百回でも、何千回でもオレと塔矢はこうやって対局する。誰もが目を瞠る対局をする。
そうしていけば、いつかは神の一手にたどりつける。そんな気がする。
佐為は対局の中でしか、神の一手はうまれない。そんなことを言っていた。
その一手が、塔矢との対局で生まれたらいいのに。そんなことをオレは思った。

「塔矢。これから時間あるか?」
対局を見に来ていた芹澤先生や、倉田さんを交えての検討が行われた。
それがおわった後に、オレは塔矢に声をかけた。
「ああ。」
塔矢が頷く。連れだって、エレベータに乗る。
「じゃあさ、市河さんの碁会所で打とうぜ。市河さん、お前とオレがあんまり打たないこと
すげー心配してくれてさ…」
オレは一階のボタンを押しながら、そう言った。ガコンとエレベーターが動き始める。
「ちがうか。市河さんが心配なのは、お前だけか。」
ハハとオレが笑う。しかし、塔矢は黙ったままだった。
しばらくして
「市河さんから聞いたよ。」塔矢が静かにそう切り出す。
「君は今日の対局が終わるまで、碁会所には行かない。と言ったそうだな。」
「そういや、そんなこと言ったな。お前に勝つまでは、って思ったんだよ。
そうすれば、堂々とお前に言えるしな。」
塔矢は眉間にしわを寄せた。「何を?」
塔矢の表情は真剣だ。塔矢のそんな表情に、思わずオレは笑ってしまった。相変わらずだな、コイツ…。
「俺はさ、お前が好きなんだと思う。」
チンとエレベータが一階に到着した。オレが先に降りる。しかし、塔矢はなかなか降りようとしなかった。
「塔矢、何やってんだよ。閉まっちまうぞ。」
オレが促しても、塔矢はエレベーターから降りようとしない。
上目づかいでオレを見上げる。
「進藤、今…」震えた声でそう告げる。
「言ったよ。好きだって。でも、別にどうこうする気はないからさ。それだけ、伝えたかっただけ。
別に気にしなくていいから」
塔矢が自分のことをどう、思うかなんてもうどうでもよかった。自分の気持ちを、伝えることができればそれで十分だ。
オレ、成長したな、自分で自分をほめてあげたい気分だ。

「ふざけるな!」

塔矢は突然、大声でそう叫んだ。棋院全体に響き渡ったような気がする。
「びっくりしたぁ。」オレは胸を上下させながらつぶやいた。
「お前、いきなり大声出すなって。びっくりするからさ。」
「てっきり秀策のことについて話してくれるかと思っていたらそんなことだったのか。」
塔矢はオレをにらみつける。
「そ、そんなことって何だよ。オレにとってみれば、人生初の告白なんだからな。」
「知るか。大体、どうこうする気は無いってどういうことだ?!
僕にそれを伝えたかっただけ?なら伝えないでもらいたいな。」
あまりの発言にオレは、ムカついてしまった。こ、コイツ…。
こっちはめちゃくちゃ勇気を出して、一世一代の告白だったんだぞ。
しかも、すっごくすっごく悩んで。佐為や和谷に背中を押してもらって。
それを、コイツは…「ふざけるな!」で一蹴しやがって。
「だーもう、いい!お前なんか知るか。お前なんて、今日、オレに負けたくせに!」
「たった一回、僕に勝ったくらいで偉そうなことを言うな。
数多く、君と戦ってきたうちで、僕が勝った回数の方が多いだろうね。」
「お前、そんなの数えてたのかよ!やっぱりヒマ人なんだな、お前って!」
「なんだと!」

「ちょっと、ちょっと、進藤くん、塔矢くん。どうしたんだ?!棋院中に響き渡ってるよ!」
エレベータで降りてきた天野さんが止めに入らなければ
オレと塔矢の喧嘩は、さらにエスカレートしていただろう。


「少しは、落ち着いた?」
棋院の出版部の応接室で、オレと塔矢はお茶を出してもらっていた。
「全く…。今日は他に対局が無かったからいいようなものの…。塔矢くん、君までどうしちゃったの?」
天野さんはオレと塔矢を交互に見ながらそう言った。
「本当に、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」
塔矢は、深く頭を下げていた。
オレは、こんなふうに怒られるのは慣れている。棋院の人にも、手合いに出て来なかったことを、めちゃくちゃ
怒られたし学校でも、先生によく怒られていた。
だが、塔矢が怒られているのは何だか新鮮だった。コイツ、学校でも優等生だったんだろうなぁ。

「それにしても、喧嘩の原因は何だったの?」
古瀬村さんが脇から、顔を出した。
「進藤くんはともかく、対局に勝っても負けてもいつもあの冷静な塔矢くんが、考えらんないよ。
対局に負けて、よっぽどくやしかった、とか?」
オレは思わず、プッと笑ってしまった。
「進藤!」
塔矢がそれに気付いたのか、ガタッと立ち上がる。その拍子にお茶がこぼれた。
「あーあ!」


「君といると、もう散々だ。」
碁会所に向かう途中に、塔矢がそんなことをつぶやいた。
「別にオレがどうこう、って訳じゃねーだろ。お前が一方的に怒ったんだし…。」
オレがそう言うと、塔矢はハァと深く溜息をはいた。
「もういい。もう、君に何も言わない」
塔矢は早足でオレの前を通り過ぎてしまった。
オレは早歩きで先に行ってしまった塔矢の後を追いかけた。
オレっていつも塔矢の後を追いかけてばっかりだなぁ、とオレは思った。
これからも、きっとそうなるんだろうなぁ、それも悪くないのかもしれない。

おわり

* あとがき * 何とか、完結させられました。すっごい、強引な感じになってしまったかもしれません。ごめんなさい(><;) でも、ヒカルの告白を「ふざけるな!」と一蹴するアキラくん。らしいよね?笑 天元戦三次予選決勝という大舞台の後に、びっくりするくらい幼稚なことで大ゲンカ、しかも棋院で、 という図を書いてみたかったです。楽しかったー二人の喧嘩を書くのは。原作でも、それが一番、大好きでした。 ほんと、アキラくんが熱くなるのはヒカルの前だけなんですよね。そんな気がします。 ラブラブだー(え) ここまで、お付き合いくださいましてありがとうございました。 この小説を元に、17歳、18歳、19歳…と年を重ねていく二人の姿を描けたらと思います。 ありがとうございましたm(_ _)m よろしければ感想など、お聞かせくださいませw WEB拍手

aya 著 / 掲載サイト:【Moment

| | NEXT | 目次 | HOME
Copyright (c) 2011 All rights reserved.
 

-Powered by HTML DWARF-