Never End

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打ち終わった後、オレと塔矢は軽い夕食をルームサービスで済ませた。
食べ終わり、ゆっくりしている時に塔矢の携帯電話が鳴った。
「はい、ええ、負けてしまいました。」
塔矢のその口調からして、相手は塔矢先生だろう。
きっと、塔矢は昔からああやって、先生に勝ち負けを報告してきたんだろう。
先生が自分の父親で、結果を報告しなければならないとしたら考えただけでも、すごく怖い。怯んでしまう。
塔矢も、負けたことを報告するのは辛い作業だったのだろう。
「失礼します。」と疲れた声で携帯を切っていた。
「先生、なんて?」
オレは、思わず気になったので聞いてしまう。
「タイトル戦は、挑戦者も保持者もどちらも尋常な心で打てるものでは無い。
それを越えなければタイトルを奪取することは難しい、と言っていたよ。
僕も、自分の碁を一度、立て直さなければ…」
塔矢の言葉に、オレは昔、塔矢が言っていた言葉を思い出した。
忍耐、努力、辛酸、苦汁。
果ては絶望まで乗り越えてなおその高みに届かなかった者さえいる…か。
「塔矢、ここからだ。お前、北斗杯の時に言ってくれたよな。終わりなどないって。
あの時の一言に俺は救われたんだ。あの言葉があったからこそ、その次の年の北斗杯で高永夏に勝つことができた。」
「進藤…。」
塔矢はそれだけ言うと黙ってしまった。
オレはその後、塔矢から目を逸らすことができなかった。
塔矢の瞳からポタッと涙がこぼれたからだ。

塔矢の悔し涙を見るのは、二度目だった。saiに打ち負かされたときにみたあの涙だ。

オレにも経験がある。負けたことが、ただただくやしくてどうしようもできない想い。
自分のふがいなさ、実力の無さ…自分の力を出し切っても勝てない。立ちふさがる大きな壁。
勝つということが、どれほど大変なことか思い知らされる。
塔矢は、ただただ静かに泣いていた。普段の取り澄ました塔矢の姿はどこにも無い。
saiに打ち負かされた時の塔矢と何も変わらなかった。
あの時、塔矢にかけてあげたかった言葉がある。あの時の自分では、届けることができなかった思い。
今のオレならば、届くだろうか。
「塔矢…」
だが、オレは何と声をかけていいのか、思いつかなくなってしまった。
塔矢の涙は止まらない。塔矢は肩を震わせて泣いていた。なんだか、消えてしまいそうだ。
今、オレができることは…。
オレは塔矢の腕をとって抱き寄せた。そして、腕を回して細い体をぎゅっと抱きしめた。
言葉にするよりも、ずっと気持ちが伝わると思ったからだ。
塔矢は、初めは体を強張らせていたが、オレが背中をポンポンと優しくたたくと
安心したのか、力を抜いてくれた。
泣きたいときは、思いっきり泣くといいんだ。そうすれば、次に立ち上がる元気が出てくる。
しばらくの間、オレと塔矢はそうしていた。
「進藤、ありがとう。もう、大丈夫だから。」
そういって、塔矢は離れようとする。だが、オレは離さなかった。
このまま離せば、塔矢が壊れてしまう気がして怖かった。
支えてあげたかった。
「進藤、離…」
そういって、塔矢はオレの手から離れようとする。
「もう少し、このままでいさせて。」
オレの真剣な言葉に、塔矢はもがくのをやめてくれた。トクンと心臓の音が間近で聞こえる。
塔矢の匂いが自分を包んでいく気がする。
少し、力を緩めると目の前に塔矢の顔があった。
瞳が湿っている。それが妙に色っぽい。俺は吸い寄せられるように塔矢の唇に、口づけた。
やわらかくて、とても気持ちいい感触。もっと、もっと塔矢に触れていたい。
俺は角度を変えて、何度も何度も塔矢に口づけた。
「んっ!」
塔矢があわてたように、オレの胸をたたいた。
離せ、という意思表示だろう。だが、どうしても離したくない。
が、しかしオレの胸のポケットの携帯がブーブーと何度も音をたてて鳴リ始める。
気が散ったオレが塔矢を抱きしめる力を緩めた途端に、塔矢は慌ててオレから離れた。

まだ心臓がドキドキしている。さっきまで、この手で塔矢を…。
携帯の着信音は鳴りやまない。
くそ、誰だよこんな時に…そう思って、ディスプレイを確認すると
”芦原さん”と表示されていた。
前のイベントで一緒になった時に、携帯番号を交換していたことを思い出す。
芦原さんが、何の用だろう。
「っはい、もしもし?」
オレが携帯に出ると
「進藤くん、アキラ知らない?!」
と一際、大きく芦原さんの声が携帯から聞こえてくる。
「と、塔矢なら今、ここにいるけど…」
「え、そうなんだ。良かった…
アイツ、携帯にも出ないから不安で…。市河さんもすごい心配してさ。変わってくれるかい?」
芦原さんの言葉に、オレは無言で塔矢に携帯を差し出した。
不思議そうに塔矢はオレから、携帯を受け取ると耳にあてた。
「ごめん、ちょっと…進藤と対局してて携帯見てなかったから。うん、心配かけてごめん。
僕なら、大丈夫だから。市河さんにもそう伝えて。」
塔矢は、明るい声で応対していた。
さっきまで、泣いていたとはとても思えない。
いつもの塔矢だった。
「うん、じゃあ、また。」
塔矢はしばらく話した後、オレに携帯を戻した。
「別に、オレたち、対局してねーじゃん。」
オレの言葉に、塔矢はキッとオレをにらみつける。
「本当のことなんて、言える訳がないだろ」
「言えば、いいじゃん。キス、してましたって。それとも、芦原さんには言えないとか?」
塔矢の顔が真っ赤になる。オレはそれが面白くて、ついからかってしまう。
塔矢は、何か言いたそうだったが、何も言わずにプイと窓の方へ歩いて行ってしまった。

やっと、塔矢らしくなってきた。元気が出たようだ。オレはホッとして、塔矢の側に近づいた。
塔矢はしばらく黙っていたが
「君がなぜ、僕にああいうことをするのか僕なりに考えていたよ。
君は、僕を好きだと言ったな。」
静かに、そう話し出した。
オレは、塔矢のその言葉に驚いた。オレの告白はすっかり、流されていたものだと思っていたから。
塔矢なりに考えていてくれたのだろう。
「僕は、なぜか君を拒めない。」
「と、塔矢、それって…。」
オレが期待を込めた目線を送る。
「でも、僕はわからないんだ。君が好きなのかどうか、わからない。
たしかに、君の打つ碁は好きだ。君の成長を間近で見ていたいと思うし他の誰と打つよりも、君と打つのは楽しい。
でも、それが君を好きだと言うことになるのだろうか?」
塔矢のその言葉に、オレは困ってしまう。オレ自身、塔矢の打つ碁が好きなのか、塔矢自身を好きなのか。
それほど深く、考えたことは無い。
でも、塔矢を失いたくない気持ちは本物だ。それだけは確かだ。
「進藤、僕は今日の一局で自分の努力不足、ふがいなさをいやというほど思い知った。
まだまだ、僕は未熟で不完全だ。君もそうだろ?」
「ああ、そうだな。」
「ならば、もっと成長する必要がある。僕も君も。それまで、この話は進めない方が良いと思う。
きっと、邪魔になる。」
「じゃ、邪魔って…」
あまりの言葉にオレは絶句する。
「じゃあ、聞くけど…君が僕と打つ時に、君が上の空だったりする原因は何だ?
僕のことを、どこかそういう目で見ているからじゃないのか?」
図星をつかれて、オレは何も言えなくなってしまった。
「と、塔矢。その、成長するっていうのはどうすればいいんだ?
どうすれば、成長したことになるんだ?」
オレの言葉に塔矢は「碁の上での成長と言うのならば、タイトルホルダーになる事だろうな。」と
アッサリ答えた。
「ちょ、ちょっと待てよ。それじゃ、オレと塔矢が付き合えるのはどっちかがタイトルホルダーに
なるまでお預けってことか?」
「どっちかじゃない。どっちもだ。」
強気な塔矢をオレは好きになった。どこまでも一途でまっすぐな、塔矢を。
でも、いくらなんでもこれはひどい、ひどすぎる。フラれるよりも、よっぽどひどい仕打ちだ。
「と、塔矢。オレがタイトルホルダーになるまでにいくつ、勝てばいいかわかってる?
本因坊戦はまだまだ二次予選だし、他の棋戦だって、えと、あれは一次予選だし、あーもう!無理、無理無理。」
「なぁ、お前がタイトルホルダーになったら、じゃダメ?」それが一番早そうなので、ダメ元で提案してみる。
案の定、「ダメに決まってるだろう」、と返される。
話はそれだけだ、というふうに塔矢は碁盤の前に戻って行った。


オレは、その場にひとり取り残され、茫然自失していた。ま、まじかい…という言葉が頭の中をグルグル回っている。
「進藤。」
塔矢は、こっちを向いてオレの名前を呼んだ。
「僕が君だったら、少しでも強くなれるように、目の前のライバルと対局するけど。」
塔矢の言葉に、くそうと思いながらオレは塔矢のいる碁盤の前に座った。
「僕だけ待たされるのは、不服だからね。」
塔矢のそんなつぶやきが、聞こえた気がした。
「わかったよ!塔矢、一局、打とうぜ。お前なんかにぜってー負けないからな。
そんで、お前よりも早くタイトル取って、お前のその訳のわからない持論を撤回させてやる。」

「望むところだ。」
目の前の強気な恋人(仮)はクスッと笑いながらそうつぶやいた。

そんな塔矢はくやしいほど綺麗だった。

おわり

* あとがき * さて、いかがだったでしょうか。2話〜3話の間が空きすぎてしまってすみませんでした。 強気なアキラくんが大好きなので、こんなふうな感じにしてしまいました。 原作でもヒカルに、いつも自分のペースを振り回されているアキラくんがカワイそうだったので、今度はヒカルを振り回してみました。 お預け…ですね。笑 私も、アキラくんとヒカルの恋人っぷりを書きたいのに!お預け…ですね(お前が書いたんだろ! どんどん、続きを書いていって…いずれ、結ばれる二人を早く書きたいと思います。 さて、ヒカルの淡い恋心を「邪魔」呼ばわりするアキラくん。 塔矢先生と明子さんの恋愛も、もしかしたらそうだったのかなーと思いまして。 たとえば「私が次のタイトルを取るまで、待っていてほしい。そしたら、結婚しよう。」とか何とか言って、プロポーズをしたのでは。 そして、アキラくんは少なからずその影響を受けている…という、どうでもいい裏設定を自分で勝手につけてしまいました。(え) ここまで、お付き合いくださいましてありがとうございました。 よろしければ感想など、お聞かせくださいませw WEB拍手

aya 著 / 掲載サイト:【Moment

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