それでも、塔矢の家に行く時間には目が覚めた。まだ、行くかどうか悩んだが、結局行くことにした。 何よりも塔矢に会いたかった。 「こんにちはー」 塔矢低の玄関を開ける。塔矢の家の玄関に靴が何足か並んでいた。 もう、始っているらしい。 「進藤!遅かったじゃないか。」 しばらくして、塔矢が顔を出した。 「あれ?2時じゃなかったっけ?始まんの。」 「1時だよ。メールしただろ。」 そういや、昨日から携帯の電源を入れていない気がする。 折角、塔矢がメールをくれたのに。 「もう、とっくに始まっているよ。」 「わるかったって。」 ふと、普通に塔矢と話せている事に気がつく。良かった…。塔矢、あのこと怒っていないみたいだ。オレはホッとした。 「おー進藤じゃん!遅いよ。」 部屋に入った途端に、倉田さんと目があった。 倉田さんの他にも、棋院で見たことのある棋士たちが何人か来ていた。比較的、若手の棋士ばかりだ。 「進藤くん、僕と打ってくれないか?」20代前半くらいの青年がオレに声をかける。 確か、辻岡さんだったかな。佐伯さんと話しているのをよく見かける。 塔矢と同じ時期に、プロになった人だ。段位は、確か3段。 「ぜひ、お願いします。」オレは頭を下げた。 研究会は順調に進んでいった。 たくさんの若手と打ったり、話したりして親睦を深められた。 携帯の番号も交換したりして「いいお店につれてってやるよ」と飲みに行く約束までしてしまった。 大人の世界ってすげぇ、としみじみ思う。 倉田さんとの再戦は、オレが勝利を治めた。 向こうが腹が減って不機嫌だったというハンデ(?)もあったが、勝ちは勝ちだ。 塔矢がポットを片しに部屋を出ていく。 「じゃあ、オレたちは帰るけど。進藤くんはまだ、塔矢くんと打ってくんだろ?」 「え?」突然、若手の棋士に、さも当たり前のように言われてオレは驚いた。 「有名だよ、君たち二人が仲がいいことはさ。ライバルなんだろ。」 ハハと笑いながら言われる。そういや、ネットでオレと塔矢が付き合っていると言う噂が流れていると和谷が言っていた。 まさか棋院で、そのことを疑われてるなんてことないよな…。 自分は何を言われてもいいが、塔矢がそんなふうに思われてしまうのは耐えられない。 「みんな、帰ったんだ。」 戻ってきた塔矢がそうつぶやいた。 「ああ。…あーーー」 オレは気が抜けたように、ごろんと横になった。 「進藤!」塔矢が咎めるような視線を向けてくる。 「わりぃ、昨日、ロクに寝てなくて。あ、なんか集中力が抜けてきた。このまま、寝れそう…。」 瞼が重い。頭がボーとする。寝不足の頭に、たくさんの対局は辛かった。 「こんな所で寝ると、風邪ひくぞ。」 「大丈夫…。塔矢、ごめん、1時間くらい寝させて…。」 塔矢が何か言っていた気がするが、耳に入らなかった。スーと眠りの世界に落ちていく。 一体、どれほどの時間がたったのだろうか。 電気が消えていたので部屋は真っ暗だった。気がつくと、布団が掛けてある。 塔矢が掛けてくれたのかもしれない。 まだ、頭がボーっとするが、さっきよりはマシだった。 んーと伸びをする。そういや、塔矢はどこに行ったのだろうか。 部屋を出ると、明りが点いている部屋が見える。 あそこは確か、塔矢の部屋だ。塔矢は、碁盤に棋譜を並べて何かを考え込んでいた。 よく見ると天元戦の時の、オレとの対局だ。相変わらず、勉強熱心だと思う。 塔矢はいつもこうして、オレとの対局の棋譜を並べているのだろうか。 「それ、オレが勝った対局の奴だろ?」 オレの言葉に、塔矢が驚いたように顔をあげた。 オレは塔矢の向かい側に座る。 「目が覚めたのか?」 塔矢はオレの問いには答えずに、逆にそう聞いてきた。 「ああ。布団、かけてくれたみたいだな。サンキュ。」 「昨日、寝てないと言っていたが…?」そう聞いてくる塔矢の目は真剣だ。 「ん、昨日?ああ、中学の友達と遊んでたんだよ。 最初は碁を打ってたんだけどその後、カラオケに朝まで付き合わされて…。」 ハハとオレは笑いながら言ったのだが、塔矢は黙ったままだった。 「塔矢…?」 そう呼びかけても、反応が無い。何かを深く考えているようだった。 倉田さんたちが居た時は気付かなかったが、二人きりになってから 塔矢の雰囲気が固く、口数も少ない気がする。 「なぁ、塔矢…。この前のこと、怒ってる?」 単刀直入に聞いてみた。 塔矢は、間髪いれずに「当然だろう」と答えた。キッとまた、あの瞳で睨みつけられる。 やっぱり、めちゃくちゃ怒ってる。当たり前…か。 誰だって突然キスを、それも同姓からされれば驚いて引いてしまうだろう。 オレも急に和谷にされたら嫌だ。まぁ、それはありえないし、和谷だって嫌だろう。 でも、どう取り繕ってもオレは塔矢が好きで好きで仕方ないのだ。 だから、キスをしたのだ。 どうあっても、塔矢に伝わらないのが悲しい所だけど。 「ごめん…。」 オレがそう謝ると、塔矢は「謝るくらいなら、するな。」と怒ったようにつぶやいた。 「でも、オレ、お前のことが好きなんだって。でも、お前、信じてくれないから…。 別に、嫌なら嫌って言えよ。振ってくれて構わないから…。」 こんな中途半端に、放置されるより、サッパリ振ってくれた方がずっと楽だ。 塔矢はオレの二度目の告白に驚いたように目を見開く。だが、すぐに厳しい表情に戻る。 「君は、そうやって僕を揶揄っているだけだろう? 僕が、あんまりそういう事に免疫が無いから…面白がっているんだろう?」 「違うよ。オレは本気で、お前のことが好きなんだって。」 オレは必死で、そう説明するが塔矢は分かってくれない。 「君は付き合っている女性もいるんだろう?」 塔矢の言葉に、今度はオレが驚く番だった。 「な、何言ってんだよ。いるわけねーじゃん。そんなの。」 「sai…。」塔矢がボソッとつぶやいた。 よく聞こえない。「え?」オレが聞き返すと 「君は、saiと付き合っているんだろう!」そう吐き捨てたように塔矢が叫んだ。 「な…」 あまりの突拍子もないことに、オレは肩の力が抜けそうになった。 saiって、佐為のこと?なんで、佐為が今更出てくるんだ? そりゃ、佐為は男にしては美人だし、碁も強い。 だけどその前に幽霊だ。幽霊とどうやって付き合うと言うのだ? 様々な疑問が頭に浮かぶ。 「違うって。なんで、佐為が出てくんだよ。アイツは関係ないって。」 「君が、囲碁セミナーのホテルで僕を抱きしめた時…。 sai、saiとつぶやいていた。だから、てっきりお付き合いしている女性と間違えたのかと思って…。 じゃあ、どうして君はあんなことを?」 塔矢に問い詰められて、オレは焦った。どういうことだと言われても…。 あの時は、折角夢であえた佐為がまた消えてしまうと思って、必死に引きとめようとしたのだ。 それで、思わず側にいた塔矢を抱きしめてしまったのかもしれない。 それとも、オレの中にある潜在意識のせいだろうか。塔矢だから抱き締めた、とか? どっちにしろ酔っていて前後の記憶が無いし、あの時の気持ちを思い出せと言われても覚えていない。 でも塔矢が、まさかそんなことを気にしているとは思わなかった。 オレに他に付き合っている人がいると思ったから、告白も信じられなくてキスされて怒ったのだろうか。 じゃあ、いなかったとしたら? もし、オレに付き合っている人がいなくて、そういうことをしたら塔矢は嫌じゃないってことなのか? 「進藤!」塔矢に回答を求められる。 「別に、佐為とは付き合ってないよ。そもそも、佐為は女じゃないし。アイツの事はまた、いずれ話すから。 今はそれで勘弁してくれないか?」 オレがそう説明すると、塔矢は下を向いて俯いた。 「分かった。いつか、話してくれるという君の言葉を待つ…。でも、どうしてあの時僕を抱きしめたんだ?」 塔矢は再び、オレの目をまっすぐに見てそう聞いてきた。 だから、こないだから何回も言っているのに…。分かってないな、コイツ。 碁のことになるとすげー勘が良くて、いつも的確な手をみつけて隙あらば、攻めてくるコイツが…。 どうして、こんなに鈍感なんだろう。 「お前のことが好きだから、って言ってんだろ? なぁ、塔矢。お前はどうなんだよ?オレのこと好きなのか、嫌いなのか?」 「わ、わからないよ。そんなの。」 塔矢は困惑したように、そっぽを向く。 塔矢は好きか嫌いかハッキリしている性格だと思う。嫌なことは嫌だとキッパリ断る。 それを否定しない。ということは…。少しは期待をしてもいいと言うことだろうか。 オレはそっと、塔矢の側に寄る。そして、塔矢の顔を真正面に見つめた。 「進藤、どけ」 慌てて塔矢がオレから逃げようと、立ち上がる。オレは、逃がしてたまるかと塔矢の手をひっぱる。 塔矢はバランスを崩して、オレの胸に顔を埋める形で倒れた。 その隙にぎゅうと塔矢の体を抱きしめた。 いつのまに、こんなに体格差が出たんだろう。 前までは塔矢の方が背が高くてそんなに変わらなかったのに。 線が細いのが触れるとなおさら分かる。 「進藤、離せっ」 塔矢が腕の中でもがいた。そっと力を緩めて、塔矢の顔を見ると恥ずかしそうに塔矢は俯いた。 「なぁ塔矢、オレのこと好き?嫌いじゃないよな?こうして、オレと打ってくれるし…。」 「君と打つのは何よりも楽しいよ…。」 塔矢の言葉に悲しくなってくる。 「打つだけ?オレ自身は?」 「もし、僕が嫌いだと言ったら、君はどうするんだ?ちゃんと僕と碁を打ってくれるのか?」 塔矢の言葉にオレは考える。 塔矢に振られた場合…。おそらく、すぐ普通に碁を打つのは無理だ。 そんな振られた相手と何も気にせずに碁が打てる程、強くないと思う。精神的に…。 「しばらくは無理かも…。」 オレの言葉に、塔矢は考え込んでしまう。 「ぼ、僕も好きだと言うしかないじゃないか。じゃなければ、また君は僕を避けるんだろう?」 塔矢の言葉に思わず、頷いてしまう。 「ずるいよ、君は…。」 塔矢はそう言ったまま、恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。 心なしか、頬が赤い気がする。 それに、こうして塔矢とすごく近い距離で話しているとどうしても変な気持ちになってくる。 「塔矢、キスしていい?」 オレの言葉に塔矢は何も答えない。怒っているのか、照れているのかそっぽを向いたままだ。 オレはそのまま、塔矢の顎を持ちあげて口づけた。 こないだもそうだったけど、柔らかい感触がたまらない。 女の子とキスをしたことがないけれど、もしするとしたらこういう感触なんだろうか。 自分にはわからないし、一生わからないままでいいと思う。 「やっ…」 オレが奥深くまで、舌を伸ばすと塔矢の体がビクンと震えた。 強引に押し開こうとした所で…唇を思いっきり噛まれた。 「いっ…」 オレがそう言いながら、唇を解放すると塔矢は慌ててオレから離れた。 「塔矢、血が出たんだけど…」 オレが痛そうに唇を抑えると、塔矢は上からオレを見下して 「当然だろう。僕はまだ、君に全てを許した訳じゃない。」 と一言だけ述べると、部屋から出て行ってしまった。 「塔矢?」 オレが慌てて、後を追おうとすると「お風呂に入ってくる。」 と廊下の向こうで返された。 つまり、来るなという意味なのだろう。 ちくしょう。いいところで逃げられてしまった。 それに結局、付き合っているのかいないのか。曖昧のまま終わってしまった。 だけど、一応、想いは伝えたしこれでいいのかもしれない。 とりあえず、今はこのまま塔矢と一緒にいられればそれでいい。 今日、泊って言っちゃおうかな…と思う。 碁が打ちたい、と言えばアイツは許してくれそうだ。 また、君はずるいと塔矢に言われそうな気がした。おわり
* あとがき * いかがでしたでしょうか。くっつきそうで、くっつかない二人を書きたかったのですが…。 なんか、難しいです…。ラブラブしている二人を書きたいけどアキラくんの性格上、こんなセリフを言うのかな? とかいろいろ考えてしまって…。でも、ヒカル大好きなオーラ全開ですよね;難しい…小説って難しいです。 でも、早く二人をラブラブにしたので頑張りたいですねw ここまで読んでくださってありがとうございました。感謝です…。m(_ _)m よろしければ感想など、お聞かせくださいませw WEB拍手
aya 著 / 掲載サイト:【Moment】