その1
長い長い眠りから覚めたような感覚に襲われる。
ここは、一体、どこだ…?
前後の記憶がまったく無い。おそるおそる、目をあけてみる。何も見えなかった。
まっ暗闇だ。

頭が割れるように痛い。
手を動かそうとしてみるも、動かない。それどころか、身体のどこもかしこも動かない。
状況から判断すると、縄か何かで拘束されているのかもしれない。

それなら…
チャクラを練ろうと体に力をいれてみる。
だが…練れない…?
かたっぱしから何かに吸収されるような感覚。

「ばかな…。この俺の力をここまで、完璧に封じる事ができるとは。
こんなことができるやつは…」

「俺しかいないだろうな…。」

唐突に人の声が聞こえ、俺はひどく戸惑った。声が聞こえるまで人の気配など、微塵も感じなかったからだ。
いくら視界を塞がれているとはいえ、これでも名の知れた忍である自分が、ここまで気づかない訳がない。
それに、この声は…。

「サ、サスケ?」

懐かしい弟の名を俺は呼ぶ。

「アンタ、なんにも覚えていないんだな。」

「ここはどこだ?」

「俺のアジトだ。」

久しぶりに聞くサスケの声はひどく冷たいものだった。

「アンタをここに連れてきてから、もう3日めだ。」

3日間も眠り続けていたというのか。
そういえば…。
だんだんと記憶が蘇ってくる。
3日前…。暁の命で鬼鮫と共に三尾を捕獲した。相手は思いの外強敵で、かなりてこずってしまった。
本部に三尾を送り届けたころには、身も心も疲れ果てていた。
自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。
そこまでは何となく、覚えている。そこから先のことは…何も思いだせない。

「どうやって俺をここまで連れてきた?」

「あの時のアンタは、かなり弱ってた。」

「いくら弱っているとはいえ、そうやすやすと捕まるような俺ではない。
大蛇丸に幾度となく襲われかけたが、すべて返り討ちにしてきた。」

俺の言葉にサスケは、鼻で笑う。

「その大蛇丸の研究の成果だよ。よっぽどアンタが欲しかったらしい。
アンタにつけた目隠しはチャクラの力を弱くする呪印が描かれてる。さらに、その縄はチャクラを吸収する力を持つ。」

その言葉を聞き、俺はある疑惑が浮かぶ。

「お前…まさか、大蛇丸のチャクラを…。」

「取り込んだ。それも、アンタを捕えるのに役立った。
これでも弟子だったんでね。師である奴の最後の望みを叶えてやらないとな。」

吐き捨てるようにサスケは言う。その口調から、少しも師と思っていないことが窺える。
大蛇丸も哀れな忍だった。己の力量を見誤り、さらなる強さを求めすぎたのだ。
うちはの血に手を出したのが、彼の最大の過ちだろう。

サスケの成長にも驚かされる。こんなにも早く大蛇丸を超えるとは…。

「俺を捕えて、どうするつもりだ?」

サスケはわかりきった事を聞くな、と呆れたように笑った。

「アンタを殺すためだ。」

彼は冷たくそういい放った。
ああ、その言葉をずっと待っていた。こんなにも早く、聞くことができるとは思わなかった。
いずれ、こうなるだろうと予測していたものの、いざこうなってみるとやけに現実離れしているように思えてくる。
俺は、思わずこぼれてくる笑いを止められなかった。

「何が、おかしい?」

「いや、どうやって殺すのかと思ってね。」

「アンタ、己の状況、わかってんのかよ?」

サスケの声に苛立ちが混ざる。

「チャクラが全く練れない。もし、練れたとしても三尾を捕えた時の後遺症でしばらく万華鏡写輪眼も使えないだろう。
身動きもとれない。まさに絶対絶命のピンチだな。」

俺の言葉に今度はサスケが笑い出す。

「それにしても、余裕だな…。俺ごときに、捕まったぐらいでは自分は死なないと思っているのか?」

俺は何も答えない。

「あの日から、ずっと俺はアンタを殺すことを目標に、アンタへの憎しみだけで生きてきた。
やっとその野望が叶う。ただ殺すだけじゃつまらない。自分のしでかした過ちの大きさを思い知らせてやる。」

「俺を拷問するつもりか?」

いたって冷静に俺は返す。

「さぁ。アンタをどういたぶるか、それはおいおい考えるさ。時間はたくさんあるんだ。」

しばらくして、ドアがバタンと閉まる音が聞こえた。
サスケは出て行ったらしい。

サスケに殺される。覚悟はしていた。微塵も恐怖などない。
だが…。そうなるのが、本当に今、この時で良いのだろうか…。
いずれ、サスケはうちは一族の真実を知る事になるだろう。
その真実と対峙した時に、負けずに前向きに生きようとする力を、蓄えておかなければならない。
サスケの闘争心を煽る者として俺は、存在しなければならないだろう…。まだ役目は終わっていない。
まだ、殺される訳にはいかないな。隙をみて逃げ出さなければ…。

それにしても、ここまで身動きがとれない状況に追い込まれたのは久しぶりだ。
試しに、万華鏡写輪眼を発動しようとしてみる。
だが、すぐに何かに吸い取られるような感覚に襲われる。

やれやれ、困ったものだ。

そういえば、鬼鮫はどこで何をしているのだろうか。
暁のルールとして、何か行動を起こす時は必ず二人一組で動かなければならない。
俺がいないと、鬼鮫も困ることになる。うまいこと、探し当ててくれればよいが…。

知らない間に眠っていた。