その2
午後二時になる少し前。里の門を出てすぐ左に曲がった森の中にサバイバル演習場はある。
サクラとサスケは、木の下の日陰に腰掛けていた。

「それにしても、急な話よね。新しい隊長ってどんな人だろう。」

「さぁな。」

サスケはぶっきらぼうに答える。どんな人であっても、興味はない。

それにしても、この無駄な日々は何だ。
第7班として、サスケの居場所が用意されている。
火影も他の仲間たちもみな、サスケがこの里の忍として存在していることが、当たり前のように接している。

(これが俺の望んだ世界だとでも言いたいのか。)

心の中で、トビにそう語りかける。

「ナルト、遅いなぁ。カカシ先生だったから、遅刻にも寛大だったけど
今度の隊長はそうもいってられないでしょう。」

サクラは心配そうに、つぶやいた。
ナルトは一楽のラーメンを食っていくから、先に行っててくれと一人、別行動をとっていた。

それから5分後。

「おーい、遅くなったってばよ」

叫びながら、ナルトが走ってくる。相変わらず、騒がしい奴だな…。

「あれ、隊長は?」

「まだよ、まだ。でも、遅刻は絶対ダメ!
ミナト様も言ってたでしょ。今度の隊長は厳しい人らしいから。ちょっと、聞いてんの?!」

サクラの怒鳴り声に、ナルトは顔をひきつらせる。

「わかったってばよ、サクラちゃん。ごめんってば。ってかさ、誰なんだ?その新しい隊長って。」

「それが、わかんないのよ!もう、定刻になったのに…」



次の瞬間、烏の鳴き声が森全体に響き渡る。

「な、なんだってばよ。」

ナルトが慌ててきょろきょろと周囲を見渡す。
気が付けば、上空を覆うように烏が、集まってきていた。

「ナルト、あんた、なんかしたんじゃないの?カラスの巣を荒らしたとか…」

「んなこと、してねーってばよ!」

やがて、サスケたちの周りは何十、いや、何百匹もいるであろうカラスの大群にかこまれていた。

「よ、よし、俺が追い払ってやる!サクラちゃんは俺が守る!」

ナルトが印を結ぼうと、動いた。

「ばか、動くな!」

烏の習性からして、こちらが動けば、攻撃とみなし襲ってくる。
それを知っていたサスケはとめようとしたのだが、一足遅かった。

ナルトが動いた瞬間…烏の大群は羽をはばたかせ、こちらに向って襲ってきた。

「きゃああああ」

サクラの悲鳴が一面に響き渡った。



烏の黒い羽が、周囲一面に舞う。とても目をあけていられないほどの強風が吹き荒れる。
その中心に人影があらわれた。誰だ。サスケは必死で目を凝らす。

「!」

嘘だろ。そんな…。現れたのは、まごうかたなきその人だった。
サスケは突然、強烈なパンチをくらったかのような衝撃を受ける。
なぜ、なぜ、アンタがここに!
その瞬間、トビのあの言葉を思い出す。

『お前の望む世界を見せてやろう』

くそ、一体、なんだってんだよ。ちくしょう…。
心の中で思いつく限りの悪態をトビに向かって吐く。


強風もおさまり、烏も消え去る。辺りを見渡すと誰もいない。
何もおきていなかったかのように、森は静かだった。

「い、一体、なんなんだってばよ…」

「烏が突然、襲ってきたかと思ったら…突然、消えたわ。」

「消えたんじゃない、初めから存在してないんだよ。」

サスケの言葉に、ナルトとサクラは頭にクエスチョンマークを浮かべている。

「どういうことだってばよ。」

「言葉の通りだよ。これは、幻術だ。」

「嘘!こんな突然、相手を幻術にかけるなんてことできる訳ない。だって、幻術の基本は…」

サクラはアカデミーで習った教科書の知識を持ち出す。

「普通はサクラの言う通りだ。こんなことが出来る奴は俺の知っている限り、一人しかいない。」

「ご名答。」

突然、背後から、人の声がする。あわてて、振り向くと…
そこに現れたのは、うちはイタチその人だった。

「あ、あなたは…」

「お、お前は…」

サクラとナルトの声が合わさる。「誰だっけ。」





「あなたが、うちはイタチさんなんですね。噂では聞いていたけど、初めてお会いします。」

サクラが顔を真っ赤にして、おずおずと話しかける。

「俺は暗部にずっといたからな。里のみんなとも、あまり顔を合わせていない。
だから、班の隊長になるのも初めてだ。」

「ったく、サスケもサスケだよ。知っているんならさ、教えてくれればいいのに。」

ナルトはサスケに文句を言う。

「いや、弟にも知らせていない。俺は極秘の長期任務にでていることになっていただろう。」

イタチは同意を求めるように、サスケの方を向く。

「でも、驚きました。私、幻術の授業、アカデミーでは結構、得意な方だったんです。
幻術返しも早く出来たし…。でも、見極められなかった。あれが幻術なんて、わからなかった…。」

フッ、と目の前でイタチが消える。

「え、あれ。」

サクラはきょろきょろと辺りを見回す。

「そう、人は思い込みの中で生きている。その思い込みを疑ってみることから、始めた方が良い。」

気が付くと、背後からイタチの声がした。
ぞくり、と寒気がする。これが、イタチの放つプレッシャーなのかもしれない。

「君たちがまず、どれほどか試したい。これのルールは知っているな?」

イタチは鈴を3つ、サスケたちの目の前にかざした。

「カカシさんの修行のように、俺からこれを奪ってみせよ。」