ったく、くだらねぇ…。 サスケは木の陰に座って、ナルトとサクラの様子を見ていた。 さっきから、二人がイタチに挑んでいるが、その攻撃の何もかもかわされまったく相手にされていない。 その様を、サスケはぼーっと呆けるように見ている。自分はいったい、何をしているんだと思う。 イタチが第七班の隊長になったと聞いた時は、かなり驚いた。 だが、結局、それは嘘でしかない。こんなまやかしの世界で会えたって何の意味もないじゃないか。 本当に、くだらねぇ。 「くく、高見の見物か?」 「アンタ!」 気が付くと、隣に仮面の男が立っていた。 全く、気配が無かった。声をかけられるまで気がつかなかった。 「早く、俺を元の世界に戻せ。」 「本当にいいのか?せっかく、イタチがお前の目の前にいるのに。」 「だから、なんだってんだよ。結局、まやかしだろ。嘘の世界で会えたって、何の意味もない。」 「嘘の世界だと思うからだ。これを現実だと思ってみろ。お前の望む世界だ。 兄弟二人で幸せに暮らせるぞ。」 トビの言葉にサスケは何も返せなかった。イタチと二人で暮らす。 確かに、それは俺の望む世界だ。けど…。 「この世界では、うちははクーデターをおこしていないようだな。 イタチも仲間殺しをしていないし、暁にも入っていない。 だが、お前の両親は戦死したことになっているし、うちはの末裔はお前たち二人だけのようだ。」 「ナルトの父親が生きていた。」 「波風ミナトは九尾の事件で死んだからな。九尾はナルトの中にはいない。 いや、九尾自体、存在しない世界だ。」 「お前は俺に、何を見せようとしているんだ?何をわからせようとしているんだ?」 サスケの質問に、トビはくくと笑った。 「さぁ。これはお前の望んだ世界だ。俺にはわからない。自分で考えろ。」 「んなの、考えられるかよ。大体…」 サスケがぶつぶつ文句を言おうとしたが、トビの「おっ」という言葉に かき消される。 「イタチのやつ、結構、本気だな。目の色が変わった」 おもしろそうに、トビが笑う。 サスケは驚いて、イタチの様子を見る。目が真っ赤だ。 「サスケ、お前もこんなところで高見の見物してないで、戦いに参加しろ。 せっかくの機会だ。イタチと戦いたくないのか。」 サスケはその問いにわざと答えなかった。 「後で、覚えてろ。現実世界に戻ったら、てめーをぶっ殺す。」 サスケの言葉に、トビはフンと鼻で笑った。気が付くと、トビの姿は消えていた。 「やってみるか…」 誰ともなしにつぶやく。サスケが目をつぶる。 ふたたびその目を開いた時には、イタチと同じように朱に染まっていた。 「もう、ダメだってばよ。」 「強すぎる、なんなのあの人!」 「……」 サバイバル演習場の草の上。3人で寝ころんだ。 「全く、歯がたたねー。攻撃があたったと思ったら、すぐにすり抜けて消えちまう。」 「ほんと、どこからが幻術でどこまでが現実なのか、あの人を前にすると全くわからなくなるわ。」 サクラの言うとおりだ。 トビが消えた後、サスケも参戦し三人でイタチから鈴を奪おうと奮闘したのだが、結果は見ての通り…。 惨敗だった。 イタチと元の世界で闘り合った時、彼は病にかかっていた。おまけに、サスケを殺そうとしたわけではなかった。 本気のイタチの強さをしみじみと感じさせられた。 「サスケ、お前のその瞳で何とか、なんねーのかよ。」 ナルトの言葉に、サスケは苛立つ。 何とかなるんなら、はじめっから何とかしている。 くやしいが、全く、歯がたたなかった。サスケはイタチほど、幻術は得意ではない。 「無理なもんは無理なんだよ。」 「まったく、使えねーってばよ。」 サスケは、ナルトの言葉にカチンときた。 「このウスラトンカチ、お前こそ、諦めねぇど根性はどうしたんだよ。」 「オレはこういう頭を使う戦い方は大嫌いなんだってばよ!」 「威張って言うことかよ。修業したんだろ。修行の成果を見せてみろ、師匠にちゃんと習ったのかよ。」 完璧に売り言葉に書い言葉だ。 そもそも、元の世界とこの世界のナルトが同じ運命を辿っているのかさえ、不明だ。 だから、この世界のナルトが元の世界と同様にあの三忍の一人、自来也と共に修行をしたのかどうかさえ、サスケにはわからない。 もしかしたら、とんちんかんなことを言っているかもしれない。 だが、サスケ自身、こんな世界に突然、飛ばされ、あろうことかあのイタチと再会し あまつさえいきなり戦えと言われたのだ。あまりの展開の早さに、ついていけない。 その鬱憤が全て、ナルトに向かってしまった。完璧に八つ当たりだ。 「てめぇ、もういっぺん言ってみろ!」 ナルトはそう怒鳴りちらし、サスケの胸倉を掴んだ。 「父ちゃんの悪口は許さねぇ。」 「父ちゃん…?」 「俺の修行を見てくれたんだ。ずっと、つきっきりで!」 どうやら、修業は自来也ではなくミナトと行ったらしい。 先ほどからナルトの戦い方を見ていると、螺旋丸がかなり進化して、威力の増した大技になっていた。 大蛇丸から以前に聞いた話では、波風ミナトは凄腕の風遁使いだったらしい。 この世界のナルトの技は、父親から伝授されたものだろうか。 ふん。父親との修業、か…。 サスケの脳裏に、父、フガクの顔が浮かぶ。 サスケも父から火遁の忍術を教えてもらったが、忍としての心得や基本的な忍術を教えてくれたのはイタチだった。 だが、それもほんのわずかな間だけ。 真実を知った今ならわかるが、あの時のイタチはそれどころではなかったのだ。 どう考えても10代の青年が背負うには、過酷すぎる運命をたった一人で背負い、常に気を張りながら暮らしていた。 この世界の平和ボケしているナルトが、心底、憎たらしい。 サスケは、ナルトの腹部に力を込めてグーで殴った。 ナルトは数メートル先に吹き飛び、木の幹に体を嫌というほど、ぶつけていた。 「何すんだよ、このやろォォ!」 ナルトが腹部を押さえながら、立ち上がる。お返しだと、サスケへの攻撃の構えをとった瞬間だった。 ドガンという衝撃音が鳴り響く。 あまりの衝撃音に驚いて、音のする方を見る。すると、一本の太い木の幹に蜘蛛の巣状のひびが入っていた。 しばらくして木がその衝撃に耐えきれずに、倒れる。 その側に、サクラの姿があった。どうやら、サクラの仕業らしい。 「いい加減にしろ!今、なんの時間だと思ってんだ!」 サクラがもの凄い剣幕でナルトを睨みつける。 「サ、サクラちゃん、何でいつもオレだけ…」 ナルトが情けない声を出す。 「サスケくんもよ。ナルトと今、喧嘩したって仕方ないじゃない。 今、私たちがすべきことをしようよ。」 心なしか、サクラの声は震えている。 「その通りだな。」 その声が聞こえた途端に、ピンと空気が張り詰める。 気が付くと、ナルトのすぐ後ろにイタチが立っていた。 「うわぁっ」 ナルトが驚き、後ずさる。 俺はみっともない所を見られたのがくやしくて、イタチから目をそらした。 「なぜ、ケンカになったんだ?」 イタチの問いに、ナルトもサスケも何も答えない。見るにみかねて、サクラがおずおずと説明しだす。 サクラの話をすべて聞き終えたイタチは、大きくため息をはいた。 「もしもこれが、戦闘中ならみんな死んでいるな。 なぜ4人1組の小隊を作るのか、もう一度その意味を考え直せ。」 「っるせーな。」 サスケは思わず、叫んでいた。 「俺は、別にコイツらと同じ小隊を組みたい訳じゃない。 こんな奴らと仲良しごっこなんて、まっぴらゴメンだ。俺は、俺は…もう一人でいいんだ。」 その途端、サスケの右頬に衝撃が走る。ナルトのぐーがもろにサスケの頬に入った。 「なんでお前はそうなんだよ!俺たち、小隊を組んでから結構、たつだろうが。 今までだって、何度もピンチに合いながら、助け合ってきたじゃねーかよ。そりゃ、ケンカもよくするけどさ。 それでも、お互い信頼していると思ってたのに…」 「はっ、何が信頼だ。くだらねぇ。俺はそんなの知らないね。」 「このやろぉお・・・」 ナルトがサスケにとびかかってきた瞬間に、イタチの瞳が赤く光った。 突然、霧がかかったように周囲の景色が何も見えなくなる。 これはイタチのかけた幻術の世界だ。どうやら本気でイタチを怒らせてしまったらしい。 「そんなにケンカがしたければ、一生、そこでしていろ。」 どこかでイタチの声が聞こえた気がした。
その3