その2
次の日、任務終了後、サスケは早速イタチの情報を集めることにした。
比較的早く、任務が終ったので、日が明るいうちに行動することができた。
母親に聞くのが、一番、てっとり早いのかもしれないと思ったがとめられる恐れもあるし、父親の耳にでも入ったら、大変だ。
なので、サスケは考えてうちはシスイに会いに行くことにした。
シスイはイタチの友人だ。気が合うらしく、いつも2人で行動することが多かった。
むかし、「兄さん、修業しようよ。」というサスケの誘いにイタチが「ごめんな、今日はちょっと用があってさ。」
そんなふうに断わる時は大抵、シスイの家に行く用事だった。
幸運なことに、シスイは家にいた。任務が明けて、寝ているところだった。
サスケはシスイにイタチの居場所を尋ねると、シスイは困った顔をした。

「ちょっと、ここでは…外にいこうか。」

サスケは頷いた。
シスイの家の側にながの川という大きな川がある。
その川の側で、サスケはシスイと話をした。
「イタチの居場所か。実は俺もよく知らないんだ。」
「そうか。」
あからさまに、ガッカリするサスケにシスイは尚更、困った顔をする。
シスイは優しい男だ。
「会いたい気持ちはわかるけどな。でも、イタチの話はあまり一族の前でするなよ。
それから、お前たちの父親である隊長の前では特に、な。」
「昨日、父さんの口から兄さんの名前が出た。」
サスケの言葉に、シスイは驚く。
「なんて言っていた?」
「いや、別にただ、イタチは警務部隊に13歳で入隊したっていう事実を言ってただけだ。」
「そうか、ま、ほとぼりが冷めればイタチも帰って来れるかもしれないな。
それまで、待て。」
待てないから、探してるんだと言いたかったがこれ以上、この優しい男を困らせるのが
申し訳ない気がして、サスケは「わかった。」と言っておいた。

シスイと別れてから、どうしたもんかとサスケは悩んだ。
こうなったら、最終手段に出るしかない。サスケは家に戻り、母親の姿を探した。
だが、家中、探してもどこにもいない。
母さん、どこにいったんだろう。
この時間はいつも家にいるはずだ。もし急用があって家をあける時は必ず、教えてくれる。
あと、探していないのはイタチの部屋だけだった。まさか、イタチの部屋に。
サスケは、おそるおそるイタチの部屋の扉を開ける。
部屋の中の様子を見て、サスケはどきりとした。
母親は机につっぷして眠っていた。エプロン姿で、まさに家事の途中だという格好だった。
サスケがどきりとしたのは、その姿がまさにイタチに似ていたからだった。
目をつぶるとまつ毛が目立つ。それから長くて艶やかな黒髪。まさにイタチと瓜二つ…。
サスケはふと、昔のことを思い出す。
「兄さん、俺の髪ってどうして兄さんみたいに真っ直ぐじゃないんだろう。」
兄弟2人で鏡を覗きこみながら、サスケがそうつぶやく。
当時、何から何まで、憧れの兄のようになりたかったサスケは髪型が、兄と違うのが気に食わなかった。
朝、起きると寝癖がひどいのも嫌だった。
それに比べるとイタチはいつも真っ直ぐで綺麗な髪をしていた。
それが、羨ましかったのだ。イタチはクスッと笑った。
「サスケは父さん似なんだろ。」
イタチの言葉にサスケは父親を思い浮かべる。確かに癖っ毛な所は似ているかもしれない。
「じゃあ。兄さんは?」
「オレは母さん似かな。」
「ほんとだ。母さんと兄さんって、よく似てる。」


「ん…」
母親は目を覚ましたようだ。
「あら、サスケ。ごめんなさい、眠っちゃってたみたいね。イタチの部屋、久々に掃除しようと思ったのよ。」
母親はそう言って、立ち上がる。
「さあて。ご飯の支度しなくっちゃ。」
部屋を出て行こうとする母親を、サスケは慌てて引きとめた。
「イタチが住んでいる場所、ね。」
母親は、手を口元によせて考える。
「実は、私もよく知らないの。イタチと会う時はいつも外で会っていたから。
イタチもまだ落ち着かないからって、教えてくれなかったわ。
あの子のことだから、大丈夫でしょうって私もタカをくくって詳しくは聞いてないのよ。」
母親はため息を吐いた。
「最近、連絡が無いから私も心配していたの。
イタチに会いたいのね?」
サスケは頷く。反対されても、会いに行くつもりだ。
だが、母親は反対するつもりは無いようだった。
「困ったわね。暗部は火影様直轄の部隊だから、一番、てっとり早いのは
火影様に聞くことでしょうね。ま、私も、いろいろと調べてみるわ。
でも、いい?サスケ。このことはお父さんには内緒だからね。」

母親はにっこりと、笑った。
「さぁて、ご飯、ご飯。」
母親が階下に降りていく足音を聞きながら、サスケはイタチの部屋で考えていた。
(暗部は火影様直轄の部隊だから、一番、てっとり早いのは
火影様に聞くことでしょうね。)
先ほどの母親の言葉が蘇る。いても立ってもいられず、サスケは家を飛び出した。
火影室を訪ねると、五代目・綱手は雑務におわれていた。

「ん、どーした、サスケ。」
よっぽど忙しいのか、綱手はサスケの方を見ない。
ずっと書類とにらめっこをしている。
「お前の今日の任務は終了しているはずだが、何か報告か?」
「いや、アンタに聞きたいことがあって…。」
火影をアンタ呼ばわりするのはどうかと思うが、あえてサスケは言葉づかいを直さない。
綱手ももう、慣れてしまったのか、そういうことを気にしない性格なのか
(おそらく後者だろう)特に何かを言われることもない。
年配の忍が側にいる時など、サスケの言葉づかいに眉をひそめる者もいるが
綱手が何も言わないので、黙っているようだった。

「なんだ?」
「イタチの所在を教えてほしい。」
サスケの言葉に綱手は顔をあげて、眼鏡を外しながらサスケの方を見る。
綱手は、もう50を超えているはずなのにその透明な白い肌に、皺ひとつない。チャクラで、若さを保っているらしい。
だが、目の下にクマができている。徹夜明けなのかもしれない、とサスケは思った。
忙しいところ、私用で綱手の手を煩わせてしまうことに少し、罪悪感を感じる。
「イタチの所在、か。暗部は確かに火影直轄の部隊だが、私が直接率いている訳ではない。」
綱手は机の中から、紙を取り出すとサラサラと筆で何かを書き出した。
「ほれ、ここに行くがいい。」
サスケは綱手から紙を受け取る。そこに書かれてあったのは…
「これは、ダンゾウの家?」
「暗部を率いているのは奴だ。そこに行って聞いてみろ。
運が良ければ教えてもらえるだろう。」
綱手はそれだけ言うと、また書類に目を通し始める。
サスケは礼を言って、火影室を後にした。
家に戻ると、とっくに夕飯ができていた。
サスケはご飯を食べながら、綱手からもらったメモを見る。
ダンゾウ、か…。会ったこともない。(運が良ければ)と綱手は言っていた。
どういうことだろう。気難しい人物なのだろうか。
任務の合間に、ダンゾウの家に行ってみようとサスケは思った。





それから、長期任務に出なければならず、サスケがダンゾウの家を
尋ねることができたのは1週間後だった。
運よく、ダンゾウは家にいた。
初めて会うが、なんとなく陰鬱な雰囲気をまとっている男だ。
サスケはなんとなく、好きになれない。
それに、仮面をかぶった暗部の装束を着た付き人が二人、片時もダンゾウの側を離れない。
サスケの持っていた刀も、この家に入る時に取り上げられてしまった。
この徹底した警備態勢。職業柄、命を狙われることが、多いのだろうか。
「うちはフガクの息子が何用かと思えば、イタチの所在を聞きに来たか。」
ダンゾウの言葉にサスケは頷く。
「いい瞳をしているな。写輪眼を開眼したのはいつだ?」
「13歳の時に。だが、詳しいことは何も覚えていない。」
確か、ナルトを敵から守ろうとして発動した気がする。
後の事は何も覚えていないのだ。
「さて、イタチの所在だな。
教える代わりに、今度、お前と話がしたい。」

何かひっかかる言い方だった。
話をするぐらいなら、構わないがなんとなくそれだけで済まないような気がした。
だが、了承しなければイタチの元へはたどり着かない。
仕方なく、それに応じることにした。
約束通り、ダンゾウはサスケにイタチの居住地が書かれた紙を渡す。
「イタチは、優秀な男だ。俺の右腕のような存在だ。
13歳の時から、暗部の分隊長を任せてある。」
その言い方にサスケは眉をひそめる。まるでイタチは自分のものだと言わんばかりだ。
紙を受け取るとサスケは、早々にダンゾウの家を後にする。
なんとも気味の悪い男だった。
なぜ、こんな男の元にイタチがいるのか、サスケは理解できなかった。